やさしいクレイジー
Think About

夏休み、どこに旅行してみたい?
そう聞かれて真っ先に、「飛鳥村」と答えた。

その頃、朝の日課は
NHK連続テレビ小説を観てからの登校。
舞台は奈良県飛鳥村。
テレビで毎日見ていたあの村で、
本物の亀石に触ってみたかった。

飛鳥村の空はとても高く、
心と頭に風が通り抜ける。
パワーがみなぎって、
なんでも出来そうな爽快感があった。

以来、約20年ぶりの奈良。

そんな久々の訪問で会いに行ったのは、
クレイジーモーターワークスの
向井会長・社長。
昭和39年創業、どんな車でも蘇らせる、
修理と再生の日本一のプロのお二人。

Think About

レーサーとしても活躍されていたお二人は、
ともに生死に関わる大きな事故を
経験していると聞いていた。
けれど出迎えてくれた姿は
そんな気配を全く感じさせない、
やさしい笑顔がとても印象的だった。

Think About

ところせましと並べられたバイク・車は、
その道に詳しくない人をも興奮させる圧巻の光景。
お二人のこだわりがお話を聞く前からうかがえる。

「中古品の良しあしは、
決して値段が高ければ良いという訳ではなく、
その良さは体で感じる「これ!」という感覚。

Think About

「強いこだわりを持って仕事をしていると、
こだわりを持ったお客さんが来るんですよ。
長年大切に使われた車を丁寧に蘇らせ、
新たな情熱を注いでくれる人の
もとへ届けるんです。」


Think About

クレイジーモーターワークスの
姿勢はシンプルで真っ直ぐ。
変に媚びるのではなく、まるで車にエネルギーを
吹き込むように作り手として心を込めて作る。
そんなエネルギーこもったものには、おのずと
クレイジーな熱量を持った人が
共感して集まってくるのだ。

Think About

― 車も電気化し、変化する
世の中をどう見ていますか?
「さまざまなものが自動化し、
電化される部分が多くなっていく中で、
感性に頼るものづくりは減っていっています。
繊細な匙加減が分かる技術者と運転者が減り、
味気ない世界になっていく。
車も昔は人と同じように
扱わなければならないもので、
声をかけるように愛着を持って接していた。
いまは何でも与えられ、
簡単なもので喜んでしまうことが増えてきて、
頭と感性を使う機会は減っていっていますね。」

Think About

強烈なエネルギーに触れ、
20年ぶりに心と頭に風が吹く。
あの爽快にみなぎるパワーが蘇る。
東京へ戻ったわたしの足は、自然と
教習車の運転席へと向かっていた。

クレイジーではなかった頃には
もう戻れない。

text by natadecocroquette
photo by yuu kamimaki

Think About